今回のテーマ
今日は
2012年9月3日。
そして、ドラえもんの誕生日は
2112年9月3日。そこで今回はムチャぶりながら、ドラえもんと経済を軸に野口さんにコラムをお願いしてみました。
皆様からの執筆テーマ募集もこのページの下部で行なっていますので、ドシドシお寄せ下さい!
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どこでもドアを夢見た欧州
ドラえもんに興味を失ってから、どのくらいの時間が経つのか思い出せない。
あんなこといいな、できたらいいなと、オトナにとって「夢のある」漫画だったのだろうが、そんな夢に背を向けたくなる程度には、少なくとも自分は子供だった。近所のヘリポートに出掛けては、その発着をひたすら眺め、蟻の巣をつつきながら考えるとき、どんなに工夫してみたところでタケコプターは不可能にしか思えなかった。竹とんぼをつくったことはあったが、あのサイズで浮力を得ようとすれば相当な回転が必要なはずで、とすれば自分だって逆向きに捩じられてしまう。エネルギー源としてのソーラーパネルや電池駆動も現実的には思われなかったし、何より頭も首も痛いに決まってる。もちろん僕だって、本当に空が飛びたかった。
だから僕はいつしか、科学に夢中になった。教科書に書いてあるそれは、ひどく素朴で、本当に空を飛ぶ旅客機を何ひとつ説明しなかったが、それでも「子供みたいな」夢を打ち砕く「法則」は、脳の中を何かを掻き毟った。エネルギーは保存する、その神の言葉に触れる驚きを、スキー場やスケートボードのパークに持ち込んだ。運動量は保存する、その宇宙の設計図を眺める興奮を、野球場やビリヤード場に持ち込んだ。大して上手にはならなかったが、それでも楽しかった。
今日から100年後に、ドラえもんが誕生するのだそうだ。贔屓目に考えても、そのすべてが実現することは不可能だ。さまざまなSFが指摘するように、そもそもタイムマシンは矛盾している。過去に遡って何らかのアクションを起こせば、そのことは現在を変えてしまう。未来を眺めた経験は、現在に持ち替えれば、また未来を変えてしまう。定義から、歴史が定義されないわけだ。
タイムマシンが使える世界では、他にもたくさんの、おかしなことが起きてしまう。例えば利息は、この世から消え去ってしまうだろう。利息を払う約束をしつつ借金をしたとしても、その後にコツコツと貯めて返済資金ができたとき、タイムマシンに乗って借りた翌日に返しに行ってしまえば利息は払わずに済む。もっといえば、コツコツと貯めた将来の自分に、その金を借りにいけば、やはり利息は払わずに済む。このことは考えてみると、利息は時間の値段であることを示している。もちろん実際には、コツコツと貯める間に何らかの事故が起きるリスクもあるわけだが、ここではドラえもんの道具によって、それらはヘッジされると考えよう。そう、無リスクの金利の話だ。
あるいは、どこでもドアが使える世界では、世界中の金利は同じ水準に収束するだろう。はるか遠い地で行われる商売を、ドア一枚くぐるだけで視察することができ、その顧客の様子を伺うコストだって激安だ。もちろん人や物は、じゃんじゃん行き来する。日本で人気の商売で、輸出できるだろうものを探すことや、また海外で人気の商売で、輸入できるだろうものを探すことは、極端に容易になる。資源や気候のような、どうしたって土地に固有の特性すら、大きなサイズのどこでもドアが何でも通過させるとき、それらに向き合うチャレンジとリスクは、薄く広く世界中に引き伸ばされるだろう。
時間の値段は、遠く離れた土地の間で商売や生活が異なるほど、それぞれに独特な水準を形成するが、こうした「どこでもドアの世界」は、例えば20年前と比べて、ぐっと僕らの手元に近づいているように感じられないだろうか。旅客機や船便の値段は、馬鹿みたいに安くなった。文字や音声、画像での連絡は、ほとんど無料だ。分厚くて重かった辞書も資料も、出先で広げるとカモられる地図も衛星からの位置情報も、当地の素敵な飯屋を探す手間も、すべて手元の端末の中に納まるようになった。どこでもドアほど簡単にはいかないが、しかし徐々に確実に、世界は小さくなりつつある。
長い歴史の中で、幾度も隣同士の争いを経験し、そのことに強い想いを抱いていた欧州の人々は、通貨の統合に「どこでもドア」を夢見たのではないかと、今日の僕は感じている。互いに物やサービスを交換するための手間が減ること、それらの値段が為替に左右されてしまう面倒が減ることは、たしかに世界を小さくする要因のひとつであるようにも思われた。一部の外野の連中は、「どこでもドア」が完全に実現する前に通貨と金利を統一させてしまったことの弊害を、今頃になって後出しジャンケンでドヤ顔だが、しかし一方でドラえもんが、試行錯誤の錯誤を叩く場面を思い出すことはできない。
こんなふうに想いを巡らせると、また僕はドラえもんが好きになった。ほんのすこしだけ、オトナになったのだと思う。欧州だって、きっとまた前に進む。
BOOK
野口能也|@equilibrista
有限会社(オキシスタジオ)代表。社内に調査室を設け、投資とリスクに関するコンサルティング業務を行う。主要顧客はこれまでに、国土交通省、JP Morgan、星野リゾート、マネックス証券等。投資とリスクに関する知識を一般に広げることで、ビジネス環境の効率を高め、豊かな社会の実現に寄与することを目指す。
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